エジプトといえば、ギザの大ピラミッドやスフィンクスなどが思い浮かびますが、首都カイロにはそれ以上に魅力的な世界遺産が存在します。それが「カイロ歴史地区」です。このエリアは、古代エジプト文明以降に栄えたイスラム帝国の影響を色濃く残し、現代に至るまでの長い歴史を物語っています。
今回の記事では、「カイロ歴史地区」とは何か、その成り立ちから代表的な見どころ、さらには各エリアの特色や訪れる際の注意点まで、徹底的に解説します。この記事を読めば、エジプト旅行の計画がより充実し、カイロの魅力を余すところなく味わうことができるでしょう。
カイロ歴史地区の主要な見どころと名所
オールド・カイロと旧市街の違いと特徴
カイロ歴史地区を訪れる際の注意点とおすすめの時期
エジプト世界遺産カイロ歴史地区の種類と見どころ完全ガイド
「アキラさん、カイロってピラミッドの時代から栄えてた都市だと思ってましたけど、実は違うんですね。」
「そうなんだよ、エミ。カイロが本格的に発展し始めたのは、イスラム帝国がエジプトを支配してからなんだ。それまでのエジプトの中心都市は別の場所だったんだよ。」
エジプトといえば、ギザの大ピラミッドやスフィンクスなど世界有数の遺跡が残る大世界遺産地域です。
現在、エジプトの首都はカイロ市ですが、カイロが古代エジプト文明以降に建設されたことは、あまり知られてはいません。
今回は、エジプトの文化遺産「カイロ歴史地区」の成り立ちを、歴史とともに振り返らせていただきますね。
カイロ歴史地区の基本情報
登録区分)文化遺産
登録年)1979年
登録基準)(1),(5),(6)
登録国)エジプト
登録地域)アフリカ
「カイロ歴史地区」はカイロ市内の東南部、約8㎞×4㎞の範囲にわたります。
カイロ発祥の地であるオールド・カイロと、旧市街(イスラム地区)と呼ばれる2つの地区が含まれています。
文化遺産の他にも600を超えるモスクや、1000以上のミナレット(礼拝施設)があり、カイロが「千の塔の都」と呼ばれる理由にもなっています。
カイロ歴史地区の2つの地区の歴史と世界遺産
現在のエジプトの首都カイロ市内にあるカイロ歴史地区には、2つの地区が文化遺産としね登録されています。
オールド・カイロと旧市街(イスラム地区)の地理
カイロ歴史地区は建設された時代によって、オールド・カイロと旧市街に分けられます。
7世紀にイスラム帝国がエジプトに侵攻た際、エジプト周辺は東ローマ帝国が支配していました。
イスラム帝国は、エジプト支配の拠点としてフスタートという都市を建設します。
オールド・カイロと呼ばれる地域
その後、フスタートは10世紀にファーティマ朝に征服され、新しくミスル・アル=カーヒラ(勝利の町)を建設しました。
ミスル・アル=カーヒラはカーヒラ=カイロとも呼ばれ、この時代からカイロという名前が歴史上に出てくるようになります。
旧市街(イスラム地区)
旧市街に当たり、建造物の特徴からイスラム地区とも呼ばれています。
カイロの歴史
カイロは現代のエジプトの首都でもあることから、ピラミッドの時代からの大都市と思われがちです。カイロを建設したのは、実は古代エジプト文明よりも後の国でした。
ピラミッドを建設した古代エジプト文明、さらに後のローマ時代は、ヘリオポリスと呼ばれる街がエジプトの中心都市でした。ヘリオポリスの近郊にあるカイロは、ナイル小規模の集落や農地が点在するだけで、政治的、経済的に重要視されてはいませでした。
エジプトの中でカイロが重要視されるようのなるのは、イスラム帝国がエジプトへの侵攻を開始した639年以降です。当時、エジプトを支配していた東ローマ帝国は、バビュロンと呼ばれる軍事都市を拠点にしていました。
イスラム帝国は、バビュロンに対抗するようにフスタートと呼ぶ都市を築き対東ローマ帝国の拠点にします。フスタートは灌漑設備や水道設備を整備し、周囲の人口を取り込みはじめます。
イスラム帝国の後にフスタートを治めたのは、661年から750年にかけてのウマイヤ朝、750年から800年頃にかけてのアッバース朝と続き、868年にはアッバース朝を母体にするトゥールーン朝が事実上の州都や首都としています。
909年から1171年にかけてのファーティマ朝は、フスタート近郊に城壁を備えた新都市を建造し、ミスル・アル=カーヒラ、又はカーヒラ=カイロと呼び、以降200年間にわたり首都として発展を続けます。
ファーティマ朝の時代のカイロは安定していたわけではなく、度重なる十字軍の襲来、近隣のエルサレム王国による侵攻が繰り返され、住宅地でもあったフスタートが徐々に荒廃をはじめます。
1168年のエルサレム王国の侵攻では、フスタートで市街地を破壊する焦土戦術がとられたことで、市民がカイロ側は避難し、以降は経済都市としても発展を続けることになります。
ファーティマ朝の時代を経て、1250年から1517年のマムルーク朝の時代には、イスラム教の宗教施設が数多く建設され、モスクや城壁など歴史的建造物が立ち並ぶイスラム都市としても発展しました。1516年、マムルーク朝がオスマン朝に征服されると、カイロの政治的な重要性は失われ、経済活動や文化活動も沈滞したとされています。
その後、1882年から1953年のイギリス当地を経て1952年エジプト革命後から現在へ続く共和制のエジプトの中心都市として、再び発展を続けています。
オールド・カイロの名所
イスラム帝国がエジプトに侵攻し、639年以降に整備されたオールド・カイロ。文化遺産に登録されている聖セルギウスとバッカス教会は、4世紀後半から5世紀前半に建立されたとされています。
現在、地下聖堂が希少価値の高い教会は、6-8世紀に整備されたとされ、エジプトで最も古いコプト教会の1つでもあります。聖ゲオルギオス教会は、エジプトで唯一の円形教会とされ10世紀頃に創設されたことが明らかになっています。
他にも、13世紀から16世紀に整備された死者の町は、オールド・カイロ地区に現在も残る文化遺産です。
旧市街(イスラム地区)の名所
909年から1171年にかけてファーティマ朝が整備した旧市街には、学術研究機関やモスクなどの文化遺産が残されています。970年創立したアル=アズハル大学は、現存する世界最古の教育機関の1つとされ宗教的に重要とされるイスラーム神学の他、哲学・天文学・イスラム科学の発展に貢献した学術研究機関です。
およそ1830年から1848年にかけて再建されたムハンマド・アリー・モスクは、乳白色の美しい雪花石膏(アラバスター)が資材に使われていることから、別名アラバスター・モスクと呼ばれ、芸術的価値が高く評価された文化遺産です。
カイロ歴史地区の代表的な見どころとは?
「たくさんのモスクや歴史的な場所があって、どこを見たらいいか迷いますね。おすすめのスポットはどこですか?」
「まずはムハンマド・アリー・モスクだね。アラバスターでできた美しい内装は一見の価値があるよ。次に、アル=アズハル大学も外せない。ここでイスラム学がどれだけ発展してきたかを感じられるんだ。」
カイロ歴史地区には、訪れるべき魅力的なスポットがたくさんあります。その中でも、初めて訪れる方に特におすすめしたいのが以下の名所です。
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ムハンマド・アリー・モスク
- 別名「アラバスター・モスク」として知られるムハンマド・アリー・モスクは、19世紀に建てられたカイロの象徴的な建物です。モスクの内部は、白いアラバスター石で覆われており、天井の装飾や豪華なシャンデリアが美しいです。ここからはカイロ市内の素晴らしいパノラマビューを楽しめます。
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アル=アズハル大学とモスク
- イスラム世界でもっとも古い学術機関の一つであるアル=アズハル大学。モスクも併設されており、静かな祈りの空間と学びの場が一体となっています。特に、モスクの美しいミナレットや幾何学模様のタイルが印象的です。
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聖セルギウスとバッカス教会
- 4世紀末から5世紀にかけて建てられたとされるこの教会は、エジプト最古のキリスト教教会の一つです。地下聖堂には、聖家族がエジプト逃避行の際に身を隠したとされる場所があります。この歴史的背景からも、訪れる価値があります。
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バザール「ハーン・ハリーリ」
- カイロの旧市街にあるこのバザールは、中世の雰囲気を感じさせる賑やかな市場です。ここでは香辛料、金銀細工、エキゾチックな布など、エジプトならではの商品が所狭しと並んでいます。お土産を探したり、地元の文化に触れるには最適な場所です。
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死者の町
- カイロの東側に広がるこのエリアは、住居と墓地が共存する独特な場所です。13世紀から16世紀にかけて整備された墓地群があり、今もなお多くの人々が暮らしています。歴史の重みを感じながら、静寂な時間を過ごすことができます。
これらの名所は、カイロ歴史地区を訪れる際にぜひ足を運んでほしいスポットです。歴史と文化が凝縮されたこのエリアを巡ることで、エジプトの過去と現在を一度に感じ取ることができるでしょう。
オールド・カイロと旧市街の違いと特徴を比較
カイロ歴史地区は、「オールド・カイロ」と「旧市街(イスラム地区)」という二つのエリアに分かれています。それぞれが異なる時代の歴史と文化を反映しており、訪れることでその違いを実感できます。
特徴 | オールド・カイロ | 旧市街(イスラム地区) |
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時代背景 | 7世紀、イスラム帝国のエジプト侵攻時に築かれた最初の都市 | 10世紀、ファーティマ朝によって整備された新しい都市 |
主要な見どころ | 聖セルギウスとバッカス教会、聖ゲオルギオス教会、死者の町 | アル=アズハル大学とモスク、ムハンマド・アリー・モスク、ハーン・ハリーリ |
建築スタイル | 初期キリスト教(コプト教)とイスラム建築が混在 | イスラム建築が中心(モスクやミナレットが特徴的) |
現在の役割 | 主に宗教的・歴史的な観光スポット | 活気ある市場やイスラム文化の中心地 |
文化的影響 | イスラム帝国以前の東ローマ帝国の影響が色濃く残る | イスラム帝国の黄金時代を象徴する |
オールド・カイロは、イスラム教がエジプトに伝わる以前から存在していたエリアであり、古代エジプトやローマ時代の名残が感じられる場所です。特に、コプト教会や古代の遺跡が多く残っているため、エジプトの宗教的多様性を実感することができます。
一方、旧市街(イスラム地区)は、イスラム文化が最も栄えた時代に築かれたエリアです。ここでは、壮麗なモスクや中世のイスラム建築が立ち並び、イスラム教の学問や芸術がどのように発展してきたかを垣間見ることができます。活気あるバザールや商業活動もこのエリアの特徴です。
これら二つのエリアを比較しながら訪れることで、カイロの歴史がどのように変遷してきたのか、またエジプトという国がいかに多様な文化を受け入れてきたかを理解することができるでしょう。
訪れるべきカイロ歴史地区のおすすめルート
カイロ歴史地区は広大で見どころが多いため、効率よく観光するためにはルートをしっかりと計画することが大切です。以下に、初めてカイロ歴史地区を訪れる方におすすめのルートを紹介します。このルートでは、歴史的な名所を順番に巡りながら、カイロの豊かな文化と歴史を感じることができます。
スタート地点: ムハンマド・アリー・モスク
- まずは、カイロを象徴するムハンマド・アリー・モスクからスタートしましょう。このモスクは、カイロの全景を一望できる絶好のスポットです。美しいアラバスターの内装を見学し、カイロ市内の風景を楽しんでください。
次の訪問先: アル=アズハル大学とモスク
- ムハンマド・アリー・モスクを後にし、タクシーや徒歩でアル=アズハル大学へ向かいます。ここでは、イスラム世界で最も古い学術機関の一つとして、宗教的・文化的に重要な役割を果たしてきた大学とモスクを見学します。学問と信仰の歴史に触れることができる場所です。
途中の立ち寄り: ハーン・ハリーリ(バザール)
- アル=アズハル大学の見学を終えたら、すぐ近くにあるハーン・ハリーリのバザールを散策しましょう。ここでは地元の工芸品やお土産を購入できます。また、伝統的なエジプトの食文化を楽しむこともできます。
午後の訪問先: 聖セルギウスとバッカス教会
- ハーン・ハリーリでショッピングを楽しんだ後は、オールド・カイロに移動し、聖セルギウスとバッカス教会を訪れます。エジプト最古のキリスト教教会の一つであるこの教会では、聖家族のエジプト逃避行の伝説が伝えられており、その歴史的な背景を感じ取ることができます。
最後の訪問先: 死者の町
- ルートの最後は、死者の町へ向かいます。ここでは、住居と墓地が共存する独特なエリアを散策し、13世紀から16世紀にかけて築かれた墓地群を見学します。このエリアの静かな雰囲気の中で、カイロの歴史の深さを感じることができるでしょう。
ゴール: カイロ市内のレストランで夕食
- すべての見どころを回った後は、市内のレストランでエジプト料理を堪能し、一日の観光を締めくくりましょう。
このルートでは、カイロ歴史地区の主要なスポットを効率よく回ることができ、エジプトの多彩な歴史と文化を存分に楽しむことができます。
カイロ歴史地区の文化的な価値とその保護活動
カイロ歴史地区は、エジプトだけでなく、世界の文化遺産としても非常に重要な場所です。ここには、イスラム文化とキリスト教文化が混在し、長い歴史を通じてさまざまな時代の影響を受けながら発展してきた多様な建造物や遺跡が点在しています。
文化的な価値
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多様な宗教の共存: カイロ歴史地区では、イスラム教のモスクとキリスト教の教会が隣り合わせに存在しており、宗教的な寛容さと共存の精神を象徴しています。イスラム教の学問と文化が花開いた時代の建造物や、古代エジプトのコプト教会などが見られることから、多くの文化が交わる場としての価値があります。
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建築様式の多様性: この地区には、イスラム建築の代表例であるムハンマド・アリー・モスクやアル=アズハルモスクなどの壮麗な建築物があり、細かな彫刻や美しいアラバスターの装飾が施されています。また、古代から中世にかけての建築技術が集約されており、時代ごとの建築様式の変遷を追うことができます。
保護活動
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世界遺産としての登録: 1979年、カイロ歴史地区はユネスコの世界遺産に登録され、その価値が国際的に認められました。この登録は、地区全体の保護と保存を促進するための重要な一歩となりました。
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政府と国際機関の協力: エジプト政府は、ユネスコやその他の国際機関と協力して、カイロ歴史地区の保護活動を推進しています。建物の修復や環境保護のための取り組みが行われており、特に老朽化が進んでいる建築物に対する修復作業が進められています。
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コミュニティの参加: カイロ歴史地区の保護活動には、地域住民やコミュニティの参加も不可欠です。住民が自分たちの文化遺産を守る意識を高めるための教育活動や、観光客向けのガイドツアーの提供などが行われています。
未来への課題
- カイロ歴史地区は、多くの文化財が集中しているため、適切な管理と保護が求められます。観光客の増加による影響や都市化の進展に対して、持続可能な観光と地域の発展を両立させることが重要な課題です。
このように、カイロ歴史地区はその豊かな文化遺産としての価値を維持するために、さまざまな保護活動が行われています。エジプトの歴史を今に伝えるこの地区が、次世代にわたって保存され続けることを期待したいです。
世界遺産検定公式過去問集(4級)からの例題
2018年の出題はありませんのでAIで予想問題を作成しています。
問題1: カイロ歴史地区に含まれる主要なエリアはどれでしょうか?
- ギザのピラミッド
- オールド・カイロと旧市街(イスラム地区)
- ルクソール神殿
- アブ・シンベル大神殿
問題2: アル=アズハル大学は、次のうちどの分野で特に有名でしょうか?
- 医学
- 工学
- 神学とイスラム学
- 法律
問題3: ムハンマド・アリー・モスクは何で有名でしょうか?
- 世界最大のモスクであること
- 乳白色の雪花石膏(アラバスター)の使用
- 最古のモスクであること
- 世界遺産に登録された最初のモスクであること
カイロ歴史地区のお話は、いかがでしたか?
世界遺産検定では、アブ シンベル大神殿や古代都市テーベが出題されることが多く、いずれの世界遺産もカイロ市とは別の地域にあります。
海外の世界遺産を覚える際、都市の成り立ちも合わせて覚えておくと、選択肢で迷うことなく回答できるようになるはずてすよ。
「カイロ歴史地区を訪れる時って、どんなことに気をつけたらいいんでしょうか?やっぱり暑さとかですか?」
「その通りだよ、エミ。エジプトは夏の暑さが厳しいから、特に夏場の観光は注意が必要だね。秋から春にかけての涼しい時期がおすすめだよ。」