セルビア南西部、ノヴィ・パザル近郊に位置する「スタリ・ラスとソポチャニ」は、セルビアにおける初の世界遺産として1979年に登録されました。この遺産群は、かつてセルビア王国の首都として栄えたスタリ・ラスの要塞や教会群、そして13世紀に建設されたソポチャニ修道院を中心としています。
歴史的な都市遺跡と宗教建築が融合したこのエリアは、セルビアの中世文化とビザンチン様式が見事に交わる場所として高い評価を受けています。
特に、ソポチャニ修道院に残るフレスコ画の美しさは世界的にも有名で、その芸術的価値は、保存状態の良さと相まって特筆すべきものです。また、スタリ・ラスを囲む城壁と要塞は、当時の防衛機構の中心であり、中世セルビアにおける戦略的な拠点でした。この遺産を巡る旅では、セルビアの豊かな歴史と文化に触れることができ、訪問者に強い印象を与えます。
この記事では、スタリ・ラスとソポチャニの歴史、フレスコ画、そして城壁を中心に、その魅力に迫る旅をご紹介します。
また、スタリ・ラスとソポチャニの写真がありませんのでこちらのセルビア公式サイトを紹介します。
・スタリ・ラスとソポチャニがセルビアで最初に世界遺産に登録された理由について理解できる
・ソポチャニ修道院のフレスコ画が持つ宗教的意義や保存技術について詳しく知ることができる
・スタリ・ラスの城壁と要塞の役割、そして中世セルビアにおける防衛機能について理解できる
・スタリ・ラスとソポチャニがセルビアとビザンチン文化の融合を象徴する遺跡であることがわかる
ソポチャニ修道院のフレスコ画に描かれた宗教的な物語
ヨーロッパ東南部、アドリア海・イオニア海・エーゲ海に囲まれたバルカン半島。歴史の舞台にも数多く登場した地域に、とある世界遺産がります。セルビアで初めて登録された文化遺産スタリ・ラスとソポチャニです。
この章では、これらのフレスコ画に込められた宗教的な物語と、それを支える保存技術について掘り下げていきます。
「アキラさん、このソポチャニ修道院のフレスコ画、本当に美しいわね!でも、何世紀も経ってもこんなに鮮やかに残っているなんて、不思議じゃない?」
「確かに、エミ。フレスコ画って湿った漆喰に直接描かれるから、壁に色がしっかり染み込んで劣化しにくいんだ。さらに、修道院で長く典礼が行われていたおかげで、煤や乳香が自然な保護膜として機能していたんだよ。」
スタリ・ラスとソポチャニの基本情報
登録区分)文化遺産
登録年)1979年
登録基準)(1), (3)
登録国)セルビア
登録地域)ヨーロッパ
「スタリ・ラスとソポチャニ」はセルビアで登録された最初の世界遺産です。
セルビア一体にかつて栄えた国家の首都とされるスタリ・ラス、建築美と保存状態の他にフレスコ画の希少価値が高く評価されたソポチャニ修道院を含むキリスト教関連施設の2種類の建築物が登録されています。
スタリ・ラスとソポチャニの掘り下げ情報の記載
「スタリ・ラス」とは「古いラス」という意味。ラスはセルビア人が打ち立てたラシュカという国の最初の都。現在のセルビアの南部、ノヴィ・パザルという都市の郊外に位置しています。
スタリ・ラスの地理
スタリ・ラスはセルビア南西部、ラシュカ郡にある都市ノヴィ・パザルの郊外に位置しています。ノヴィ・パザルは、中世のバルカン半島でスタリ・ラスが廃れたあとに代わりになる居住地として発達したという説が有力です。
現在のノヴィ・パザルは742km2の面積に85996人が暮らす都市で、住民の6割が市街地に住んでいます。面積は新潟県糸魚川市(746.24km2)や北海道旭川市(747.66km2)など市町村の中でも、日本国内では広いとされる都市と同じくらいの広さです。
人口は茨城県牛久市(83831人)や東京都狛江市(83807人)とほぼ同じ住民が暮らしています。現在のノヴィ・パザルは日本国内の都道府県に当たるサンジャク地方の中心地でもあり、セルビアの文化的な中心地でもあります。
中世の15世紀頃のバルカン半島では、地中海のドゥブロヴニクやコンスタンティノープル、現在のボスニアのサラエヴォ、ハンガリーのブダペスト、現在のセルビアの首都ベオグラードなど東欧地域へ続く街道の交わる都市として交易が盛んな経済都市として発展していたことが文学作品などに残されています。
その後、バルカン半島がオスマン帝国の統治下となった15世紀から20世紀にかけては、セルビア一帯の衛星国家イェニ・パザル・サンジャクの首都としてノヴィ・パザルは発展を続けています。
スタリ・ラスの歴史
ノヴィ・パザルが中世の経済都市として発展し、現在まで続いている一方でスタリ・ラスは「かつて人が暮していた遺跡」として街としての機能が失われた時期があります。
スタリ・ラスは「古いラス」という意味があり、建造は9世紀から10世紀の間とされています。当時の中世セルビアに存在した国家ラシュカにとって、アドリア海と隣国ゼタ公国を繋いでいただけでなく、西のボスニアと東のコソボを繋ぐ地理的要衝でもありました。
10世紀から13世紀の間、中世の都市に共通する要塞の他に王宮跡や聖堂などの建築物が発見されたことでラシュカの首都機能があったとされています。
交通の要所、首都機能と重要視されたスタリ・ラスですが、13世紀以降は住民が減少し、隣接するノヴィ・パザルに機能が移ったことが明らかになっています。
ソポチャニ修道院とキリスト教関連施設
セルビアの文化遺産「スタリ・ラスとソポチャニ」が世界遺産に登録された背景に、キリスト教建造物の保存状態が良いことがあげられます。
世界遺産の登録名になっているソポチャニ修道院は、1260年頃に建てられたセルビア正教会の修道院です。
その他にも、有名な2つのキリスト教関連施設と遺跡を紹介させていただきます。
聖ペトル聖堂とネクロポリスは、10世紀頃に建設されたと推測される聖ペトル聖堂、巨大な埋葬場所や墓地のネクロポリスはセルビアに現存するキリスト教関連施設の中では最古とされています。
ジュルジェヴィ・ストゥポヴィ修道院は1168年の創建され、とくに構成する建築物の聖ゲオルギ聖堂は独特の建築様式でもあることから、歴史的価値だけでなく後代に与えた影響の面からも重要視されています。
街全体を取り囲むグラディナの城壁は9世紀に建設が始まり、町全体を取り囲む状態になったのは12世紀とされています。異なる民族・宗教の国家同士が地続きで接するヨーロッパでは、都市を丸ごと要塞の中に置く城塞都市が珍しくはありません。
ソポチャニ修道院のフレスコ画に描かれた宗教的な物語とその保存状態
ソポチャニ修道院は、セルビア正教会の中でも特に重要な修道院として知られていますが、その最大の魅力は美しいフレスコ画にあります。このフレスコ画は、13世紀に描かれたもので、キリスト教における重要な場面が色鮮やかに再現されています。特に「聖母の眠り」や「最後の晩餐」など、宗教的なテーマが深く描かれており、その写実的な人物描写は見る者に強い印象を与えます。
保存状態も非常に良好であり、これまでに数度の修復作業が行われてきました。フレスコ画が何世紀も経過してもその鮮やかさを保っている理由の一つに、湿った漆喰に直接顔料が染み込む技法が使われたことが挙げられます。また、修道院で長く行われていた典礼によって、煤や乳香の成分が自然な保護膜となり、絵の劣化を防いできたのです。
さらに、修復作業においては、古代の技術を再現しつつも、現代の保存技術を活用することで、オリジナルの美しさを最大限に保つ工夫がされています。このフレスコ画を目の当たりにすることで、セルビアの宗教的歴史だけでなく、当時の芸術文化の高さを感じ取ることができるでしょう。
世界遺産検定のポイント:フレスコ画の保存技術
ポイント: 世界遺産検定では、特定の文化財やその保存技術についての知識が重要です。ソポチャニ修道院のフレスコ画は、保存状態が非常に良好で、セルビア正教会の宗教的背景や修復技術についての知識を深める絶好の例となります。
スタリ・ラスの城壁と防衛施設の構造:中世セルビアの要塞都市の魅力
スタリ・ラスの城壁と要塞は、中世セルビアにおける防衛の要として重要な役割を果たしていました。9世紀にその基礎が築かれ、12世紀には町全体を囲む大規模な防衛施設として完成しました。特にセルビア王国が国としての地位を確立する中で、スタリ・ラスはその要塞的な役割を強化していきます。
「アキラさん、このスタリ・ラスの城壁ってすごいわね。中世の都市全体を要塞で囲むなんて、どれくらい安全だったのかしら?」
「安全面ではかなり強固だったと思うよ。でも、外部からの攻撃を完全に防ぐために、銃眼を設けたり、長期の包囲戦に備えて貯水槽や食料庫もあったみたいだね。ただ、治安が悪い地域だから、今訪れる際は注意も必要だよ。現地のガイドを頼むと安心だよ。」
この城壁は、ただの防衛施設としての機能だけでなく、都市全体を守る要塞都市の一部として発展しました。城壁内には聖堂や宮殿、貯水槽などの施設もあり、攻撃を受けても長期間の自給自足が可能だったとされています。また、城壁には銃眼が設けられており、外部からの攻撃に対して強固な防御が行える構造が採用されていました。
現在、スタリ・ラスの城壁跡は、一部が保存されているだけですが、その大きさや構造を見ることで、当時のセルビア王国の繁栄と戦略的な都市設計が感じられます。現地を訪れる際は、城壁の遺跡を巡りながら、その歴史的背景に思いを馳せることができるでしょう。
世界遺産検定のポイント:中世の城壁と防衛施設
ポイント: 世界遺産検定では、防衛施設や城壁の構造についての知識が求められることがあります。スタリ・ラスの城壁は、都市全体を守る要塞都市としての機能を持ち、戦略的な都市計画の一環として築かれました。この点に注目すると、検定対策に役立ちます。
スタリ・ラスとソポチャニに見るセルビアとビザンチン文化の融合
スタリ・ラスとソポチャニは、セルビア王国の歴史だけでなく、ビザンチン文化との深い結びつきを象徴しています。セルビア王国はビザンチン帝国との接触を通じて、多くの文化や技術を吸収し、独自の芸術や建築様式を発展させました。
特に、ソポチャニ修道院の建築様式にはビザンチン建築の影響が色濃く見られ、修道院の大きなドームや、重厚な石造りの建築がその特徴です。また、フレスコ画にもビザンチンの宗教芸術が反映されており、当時のセルビアが東西の文化を取り入れ、独自の発展を遂げていたことがわかります。
このように、スタリ・ラスとソポチャニは、セルビアとビザンチン文化の融合の象徴として、今なお重要な遺産として評価されています。現代においてもその影響は強く、セルビアの建築や宗教文化に深い影響を与えています。
スタリ・ラスからソポチャニまで:中世セルビアの歴史的旅路をたどる
スタリ・ラスとソポチャニは、地理的にも近接しており、中世セルビアを代表する重要な拠点でした。この地域は、交易の要所としても発展し、特にスタリ・ラスはセルビアの最初の首都として機能していました。スタリ・ラスがその役割を果たしていた9世紀から13世紀の間に、セルビア王国は拡大し、経済的にも繁栄しました。
その後、スタリ・ラスは次第に役割を終え、ソポチャニ修道院がその地域の宗教的な中心地として重要視されるようになりました。修道院の建設は、セルビア王国の繁栄を象徴するものであり、当時の王族たちもこの地に葬られました。
この地域を訪れる旅では、スタリ・ラスとソポチャニの歴史的な移り変わりを感じ取ることができ、セルビアの中世史を学ぶ上で非常に興味深い体験ができるでしょう。
フレスコ画と建築様式から見るソポチャニ修道院の美学と宗教的影響
ソポチャニ修道院の建築様式は、セルビア正教会の中でも際立った美学を持っています。修道院は、重厚な石造りの建築と、ビザンチン様式の大きなドームが特徴です。その中で、フレスコ画が壁一面に広がり、訪れる者に圧倒的な宗教的影響を与えます。
フレスコ画に描かれる宗教的テーマは、キリスト教における重要な物語が多く、特に聖母の眠りやキリストの降誕などが有名です。これらのフレスコ画は、当時の信者たちにとって宗教教育の一環でもあり、修道院は宗教的な学びの場としても機能していました。
また、修道院の建築様式には、ビザンチン建築だけでなく、ロマネスク建築の要素も取り入れられており、異なる文化が融合した独自の美学が見られます。この多様な建築様式と宗教的な芸術作品は、訪れる者に深い感銘を与え、今もなお修道院は信仰の場としての役割を果たしています。
セルビア観光の公式サイト:https://serbia.com/
世界遺産検定公式過去問集(4級)からの例題
2018年の出題はありませんのでAIで予想問題を作成しました。
問題1:スタリ・ラスとソポチャニはどの国で初めて世界遺産に登録された文化遺産ですか?
1.ギリシャ
2.セルビア
3.クロアチア
4.アルバニア
問題2;ソポチャニ修道院に描かれている有名な宗教的なテーマは何ですか?
1.キリストの洗礼
2.聖母の眠り
3.ノアの方舟
4.十戒の石板
問題3:スタリ・ラスの城壁と要塞が建設された主な理由は何ですか?
1.宗教儀式のため
2.貿易の拠点を守るため
3.王族の住居を守るため
4.外部からの攻撃を防ぐため
セルビアの文化遺産スタリ・ラスとソポチャニのお話は、いかがでしたか?1つの都市が発展し続けた日本と異なり、海外ではかつての都市の近くに大都市が築かれることも、都市ごと別の地域へ移転することも珍しくはありません。
海外の都市が築く、歴史を現代に残す建築物、バルカン半島一帯に興味を持たれた方もいるのではないでしょうか?
「今回のスタリ・ラスとソポチャニの話、本当に素晴らしかったわ。歴史的な背景を知ったうえで訪れると、見方が変わるわね。」
「そうだね、エミ。セルビアの中世文化とビザンチンの影響を感じながら、こういった歴史遺産を実際に見ると、教科書では学べない深い感動があるよね。治安に注意しながら、こういった歴史を探る旅を続けたいね。」
スタリ・ラスとソポチャニのまとめ
- スタリ・ラスとソポチャニは、セルビアで最初に世界遺産に登録された文化遺産である
- スタリ・ラスはセルビア王国の最初の首都として知られる
- ソポチャニ修道院は13世紀に建設されたセルビア正教会の重要な修道院である
- ソポチャニ修道院のフレスコ画は、保存状態が非常に良好である
- 「聖母の眠り」などの宗教的テーマがフレスコ画に描かれている
- スタリ・ラスの城壁は、9世紀から12世紀にかけて建設された防衛施設である
- スタリ・ラスの要塞は、外部からの攻撃に備えた重要な防御機能を果たした
- ソポチャニ修道院はビザンチン文化とセルビア文化の融合を象徴している
- スタリ・ラスとソポチャニは、セルビア中世史における重要な遺跡である
- 修道院のフレスコ画は、宗教教育の一環として描かれたものである
- スタリ・ラスとソポチャニは、交易の要所としても歴史的に重要であった
- 修道院の建築様式には、ビザンチンとロマネスク建築の要素が融合している
- ソポチャニ修道院は、王族の葬儀が行われた宗教的中心地であった
- スタリ・ラスの城壁跡は、セルビア王国の繁栄を象徴する遺産である
- スタリ・ラスとソポチャニの歴史を巡る旅は、セルビアの豊かな文化に触れる貴重な体験となる