シリアの首都ダマスカスは、古代から現代に至るまで、中東の歴史と文化を象徴する都市として存在し続けています。
紀元前から栄えたこの都市は、現在では世界遺産に登録され、その歴史的価値が世界中で認められています。しかし、2011年に勃発したシリア内戦により、その遺産は深刻な危機にさらされています。
この記事では、ダマスカスが世界遺産として登録された背景と、その歴史的な意義、そして現代における危機遺産としての現状に迫ります。古都ダマスカスの歴史を振り返りながら、なぜこの都市が危機に瀕しているのか、その理由を探っていきます。
・古都ダマスカスが危機遺産に登録された背景
・シリア内戦が古都ダマスカスの遺産に与えた影響
・世界遺産としての古都ダマスカスの価値とその保全活動
・古都ダマスカスの現状と未来に関する国際的な保護と復興の取り組み
古都ダマスカスの危機遺産と世界遺産としての歴史を探る
「アキラさん、ダマスカスが危機遺産に登録されているって本当ですか?そんなに貴重な場所が危機にさらされているなんて信じられないです。」
「そうだよ、エミ。2011年に始まったシリア内戦が、古都ダマスカスの歴史的な遺産を深刻な危機に陥れているんだ。だからこそ、今こそその価値を守るための国際的な努力が必要なんだ。」
ここ数ヶ月のニュースは、2023年の10月に激化したイスラエルとパレスチナの情勢が放送されない日はほとんどないほど、中東情勢は危機的な状況です。
中東情勢の舞台でもある地中海東側には、紀元前から栄えている都市が世界遺産として登録されています。
その世界遺産は、中東のシリアにある古都ダマスカス。
美術品や調理器具にも関係する伝承のあるダマスカスには、どんな歴史があるのでしょうか?
古都ダマスカスの基本情報
登録区分)文化遺産
登録年)1979年
登録基準)(1), (2), (3), (4), (6)
登録国)シリア
登録地域)中東
現在のシリアの首都、ダマスカス市内にある歴史地区「古都ダマスカス」は中東で最古の都市の1つとされ、記録が残る限りでも3000年以上栄えた地域です。
古都ダマスカスには、中世の十字軍との戦いの歴史を物語る城塞、715年に建築された世界最古のモスクといわれるウマイヤド・モスクもあり、イスラム教の4大聖地の1つに数えられています。
歴史的価値が高い評価を受ける一方で、2011年から現在まで続くシリア内戦の影響により危機遺産に登録されています。
ダマスカスの現在の地理
ダマスカスは、地中海から約80 km内陸の都市です。
市内全域の面積は105km2で、日本国内では大阪府高槻市(105.29km2)、千葉県佐倉市 (103.69km2)に近い広さです。
特に77km2の市街地に1603368人の人口が集中し、福岡県福岡市(1612392人)や神奈川県川崎市(1538262人) など大都市の人口が市街地に集中しています。
市街は、北側にバラダ川、東側にはグータと呼ばれる砂漠に広がる森林、西側は神話の舞台にもなっているカシオン山がそびえ、ダマスカスそのものも標高680 mの高所にある都市です。
市街の中に含まれる古代都市ダマスカスは、南東・北・北東の方角には中世に遡る近代市街、南西のミーダーンと北・北西には宗教上重要な地域が含まれています。
メソポタミア文明とダマスカスの歴史
紀元前8000年から現代まで、10000年もの昔から人が定住していたダマスカスは「史上最古の都市」に数えられています。
地域の碑石には、紀元前11世紀頃までに、ユーフラテス川上流に定住したアラムが集まったと刻まれています。
当時は、バラダ川を運河として整備し、世界に先駆けた水道を初めて構築したことが明らかになっています。
その後、紀元前1100年、アラム人国家によって統治され、アラム・ダマスカスと呼ばれる地域の中心都市に成長します。
さらに紀元前732年にアッシリア人、紀元前572年に始まる新バビロニア王国、そして紀元前350年頃のアレキサンダー大王率いるギリシア。
歴史が西暦になると、106年頃にはローマ、636年から100年間はインドまでの広大な領土を持つウマイヤ朝の首都とされ、11世紀後半は十字軍との戦争の舞台にもなっています。
1516年から1918年までは、オスマン帝国によって統治され、イスラム教徒の住民が都市に集まった時代が続きます。
四方を海に囲まれた日本国内で暮らす私たちにとって、古代文明の時代から現代まで統治者が入れ替わる都市は珍しくもあります。
実は、1つの地続きの地域で複数の民族が暮らす地域では、多く見かけることです。
交通の要所、農業や産業の豊かな地域、民族や宗教上重要視される都市では、勢力図の変化によって支配者が入れ替わります。
ダマスカスは、アラム・ダマスカスの時代には水運が整備された産業の盛んな地域、ギリシアやローマの時代には西洋と東洋をつなぐ交通の要所、中世の時代には宗教上重要視される都市として地域の勢力が覇権を競い合う都市でした。
ダマスカスにまつわる伝承
美術品や調理器具に興味のある方は、ダマスカス鋼と呼ばれる金属をご存知かと思います。
ダマスカス鋼は、木目状の模様が浮き出た金属で刃物の刀身に利用されています。
名前の通り発祥は古都ダマスカスとされ、紀元前6世紀から16世紀までウーツ鋼と呼ばれる金属を加工し武器や調理器具に利用されました。
ダマスカス鋼の製法は失われた技術とされ、中世を堺に技術者も記録も途絶えてしまいます。
当時製造された刀剣を分析し、最新の金属加工技術で再現された現代のダマスカス鋼は高品質ではありますが、一度失われた技術が全く同じように再現されているとは言い難いようです。
また、模様が浮き出るように織られた織物のダマスク織もダマスカス発祥の工芸品でもあります。
失われた技術と継承されている技術が入り交じるのは、ダマスカスの歴史と重要性を物語っていることでもあります。
古都ダマスカスが危機遺産に登録された背景とは?
古都ダマスカスが危機遺産に登録された背景には、シリア内戦の影響が大きく関係しています。ダマスカスは、紀元前から続く歴史ある都市であり、数多くの文化遺産が残されています。しかし、2011年に始まったシリア内戦により、これらの貴重な遺産が破壊や損壊の危機にさらされることとなりました。
内戦の勃発とともに、ダマスカス市内では激しい戦闘が繰り広げられ、その影響で歴史的な建造物や遺跡が被害を受けました。例えば、ウマイヤド・モスクのような世界的に有名な建物も戦火に巻き込まれ、一部が破壊されました。これにより、ユネスコは古都ダマスカスを「危機遺産」として登録し、国際的な注目と保護が必要であると判断しました。
危機遺産に登録された理由の一つは、歴史的価値の高い文化遺産が戦争や紛争により失われる可能性が高まったことです。内戦の影響で、修復や保護が困難になり、さらに被害が広がる恐れがあるため、早急な対応が求められています。
また、ダマスカスは宗教的にも文化的にも重要な都市であり、その遺産が損なわれることは、シリアのみならず、世界全体にとって大きな損失となります。
シリア内戦が古都ダマスカスの遺産に与えた影響
シリア内戦が始まってから、古都ダマスカスの遺産は深刻な被害を受けています。戦闘による直接的な破壊だけでなく、略奪や不法な発掘が行われ、多くの貴重な文化財が失われてしまいました。内戦の混乱を利用した犯罪組織による遺物の密売も増加し、ダマスカスの遺産が世界中に散逸してしまう事態が続いています。
また、戦闘の影響で、市民が都市を離れざるを得なくなり、遺産の保護や管理が十分に行えない状況に陥っています。保護活動の中断や資金不足により、歴史的建造物の崩壊が進んでいる場所もあります。たとえば、かつて繁栄を極めたバザール(市場)は戦火により焼失し、その再建が難航しています。これにより、ダマスカスの伝統的な文化や商業活動も大きな打撃を受けました。
さらに、内戦の長期化により、国際的な支援も難しくなっているのが現状です。安全面の問題から、専門家や資材の現地への送付が制限されており、保護活動は思うように進んでいません。その結果、遺産の状態はますます悪化し、修復が困難なほどのダメージを受けています。
これらの状況は、ダマスカスのみならずシリア全土の遺産に共通する問題であり、早急な国際的な協力と支援が求められています。古都ダマスカスが再びその輝きを取り戻すには、平和の回復とともに、包括的な保護と修復の取り組みが必要不可欠です。
「戦争の影響でどれくらいの遺産が失われたんでしょうか?考えるだけで胸が痛みます。」
「具体的な被害はまだ全容が明らかになっていないけど、多くの歴史的建造物が破壊されたり、略奪されたりしてしまっているんだ。ダマスカスのバザールも戦火で焼失し、その再建は難航しているんだよ。」
世界遺産としての古都ダマスカスの価値とその保全活動
古都ダマスカスは、世界遺産として非常に重要な価値を持つ都市です。その価値は、単に古い都市であるというだけでなく、何千年にもわたって人類の歴史と文化が積み重なってきた場所であることにあります。
ダマスカスには、古代から続く建造物や、イスラム文化を象徴するモスクなどが多く存在し、これらが現在でも残されていること自体が奇跡とも言えます。
世界遺産としてのダマスカスの価値を支えているのは、多様な文化と歴史が交差する場としての役割です。紀元前から続く都市でありながら、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教など多くの宗教が共存し、それぞれの文化が影響し合いながら発展してきました。
この多様性こそが、ダマスカスをユニークな存在として際立たせているのです。
しかし、内戦による破壊が進む中で、これらの貴重な遺産を守るための保全活動が急務となっています。ユネスコや国際的なNGOが協力して、修復プロジェクトや文化財の保護活動を展開していますが、現地の不安定な状況から活動が制限されることも多いです。
それでも、ダマスカスの遺産を次世代に伝えるために、現地の専門家や国際社会が連携し、できる限りの努力が続けられています。
古都ダマスカス:危機遺産としての現状と未来
現在、古都ダマスカスは危機遺産として、世界中からの関心を集めています。その理由は、シリア内戦による深刻な被害とその持続的な影響です。
戦闘により、多くの歴史的建造物が破壊され、また、遺跡の保存状態が悪化しています。特に、市内の重要なモスクや古い市街地の建物は、崩壊の危機に直面しています。
危機遺産としての現状を改善するためには、平和の回復が第一の課題です。戦闘が続く限り、遺産の保護や修復は困難を極めます。
しかし、平和が訪れた後には、国際的な協力を得て、徹底した修復と保全活動が行われることが期待されています。
未来を見据えると、ダマスカスがかつての輝きを取り戻すには、長期的な視野での復興が必要です。これには、地元のコミュニティの再建や、文化遺産の価値を再認識する教育活動が重要となります。
危機遺産としての状況は厳しいものの、適切な対策と国際的な支援があれば、ダマスカスは再びその歴史的な価値を取り戻し、世界中の人々にその魅力を伝えることができるでしょう。
歴史的な古都ダマスカスの復興と保護の取り組み
歴史的な古都ダマスカスの復興と保護には、多くの課題が存在しますが、その取り組みはすでに始まっています。
最も重要な取り組みの一つは、破壊された建造物の修復です。
シリア内戦で被害を受けたモスクや古い建物の再建には、技術的な専門知識が必要ですが、国際的な支援を受けながら少しずつ進められています。
また、遺産の保護においては、現地の人々の参加が不可欠です。
地元の住民が自らの文化遺産を守り、次世代に伝える意識を持つことが、復興の鍵となります。そのため、教育プログラムやワークショップを通じて、住民が遺産の重要性を理解し、保護活動に積極的に参加できるよう支援が行われています。
さらに、国際社会もダマスカスの復興に対して強い関心を持っています。ユネスコや他の国際機関が資金や技術支援を提供し、保護活動を後押ししています。
これにより、危機にさらされた遺産を守り、未来へとつなげるための基盤が築かれつつあります。
ダマスカスの復興と保護には時間がかかるかもしれませんが、これらの努力が結実すれば、再び世界中の人々にその美しさと歴史を伝えることができる日が来るでしょう。
世界遺産検定公式過去問集(3級)からの例題
Q1.危機にさらされている世界遺産の救済などに使われる財源として、正しいものはどれか?
1. 環境保護基金
2. 世界遺産基金
3. 危機遺産基金
4. 国際協力基金引用元: 世界遺産検定公式過去問集(p19,2018年3月世界遺産検定3級)
Q2.危機遺産リストの正式名称として、正しいものはどれか?
1. 登録抹消の危機にある世界遺産リスト
2. 危機からの救出を求める世界遺産リスト
3. 危機にさらされている世界遺産リスト
4. 文化財および自然環境の危機に関するリスト引用元: 世界遺産検定公式過去問集(p30,2018年7月世界遺産検定3級)
古都ダマスカスのお話はいかがでしたか?
2018年の世界遺産検定では、危機遺産という形で出題されていました。
現在も続く戦争に深く関係する、古都ダマスカスの歴史。
中東の歴史とともに覚えておきたい世界遺産です。
「この記事を読んで、ダマスカスの遺産がいかに貴重で、そしてどれだけの危機に瀕しているのかを実感しました。早く平和が戻って、すべてが守られるといいですね。」
「本当にそうだね。歴史と文化を未来に残すためにも、国際的な協力がもっと必要だよ。ダマスカスの再建には多くの課題があるけど、希望を持って取り組んでいくしかないね。」
古都ダマスカスの危機遺産と世界遺産のまとめ
- 古都ダマスカスはシリアの首都であり、世界遺産に登録されている
- 紀元前から栄えたダマスカスは、中東の歴史と文化を象徴する都市である
- 2011年に勃発したシリア内戦により、ダマスカスの遺産は危機に瀕している
- ユネスコにより「危機遺産」として登録され、国際的な保護が求められている
- ダマスカスには世界最古のモスク、ウマイヤド・モスクが存在する
- 内戦により、ダマスカスの多くの歴史的建造物が破壊された
- 略奪や不法な発掘により、貴重な文化財が失われつつある
- 世界遺産基金が遺産の保護や修復に使われている
- ダマスカスの遺産保護には、地元住民の参加が重要である
- 国際社会の協力により、修復活動が進められている
- ダマスカスは多様な宗教と文化が交差する重要な都市である
- 危機遺産リストは、遺産を保護するための国際的な支援を得やすくする
- ダマスカスの復興には長期的な視野が必要である
- ダマスカスの遺産は、次世代に伝えるべき貴重な文化資産である
- 国際的な保護活動により、ダマスカスの未来が期待されている