世界遺産には、文化遺産や自然遺産に加えて、複合遺産という特別なカテゴリーがあります。複合遺産とは、文化遺産と自然遺産の両方の特性を兼ね備えた遺産であり、その登録基準を満たすことは非常に難しいです。世界中で登録されている複合遺産はわずか3%に過ぎず、その希少性と価値は非常に高いと言えます。
この記事では、複合遺産の具体的な登録基準や、世界にある有名な複合遺産の例を紹介するとともに、日本国内における複合遺産の現状と未来の可能性についても考察します。複合遺産の魅力と意義を理解することで、世界遺産に対する理解を深め、日本の文化と自然が融合した遺産の素晴らしさを再発見する機会となるでしょう。
世界の複合遺産の具体例:カンチェンゾンガ国立公園、ギョレメ国立公園、マチュ・ピチュなどの具体的な複合遺産の例を知ることができる。
日本の複合遺産の現状と可能性:日本には現在複合遺産が登録されていないが、候補地として富士山などがあり、登録に向けた取り組みが行われていることを理解できる。
複合遺産の保護と観光のバランス:複合遺産の保護活動の重要性と、持続可能な観光とのバランスを取るための具体的な取り組みについて知ることができる。
複合遺産に選ばれるのは難しい複合遺産とは?
「複合遺産について聞いたことがありますか?」
「ええ、少しだけ。文化遺産と自然遺産の両方を兼ね備えた特別な遺産ですよね?でも、具体的にどのような基準で選ばれるのかは知らないんです。」
「その通りです。それでは、複合遺産がいかに希少で、登録されるのが難しいかについて詳しく説明しましょう。」
世界遺産に文化遺産と自然遺産があることは、興味を持って調べられている方はご存知のことでしょう。世界遺産には、もう1つ複合遺産というものがあります。
複合遺産と呼ばれているように、文化遺産と自然遺産が合わさった世界遺産というのは、想像しやすいかと思います。
今回は、複合遺産の具体的な登録基準をまとめさせていただき、実際の複合遺産を照らし合わせて紹介させていただきます。
複合遺産は、文化遺産と自然遺産両方の登録基準に当てはまる世界遺産です。
複合遺産の登録数はほんの僅か
2021年7月時点で、世界遺産の登録数は1154件、文化遺産が897件、自然遺産が218件です。
それでは、複合遺産はというと、僅か39件。世界遺産に占める割合は、3%です。
さらに、日本国内で複合遺産に登録されている世界遺産は……0。複合遺産は、世界遺産の中でも狭き門といえます。
複合遺産に選ばれる基準
複合遺産の基準の前に、世界遺産の登録基準について復習してみます。世界遺産は、10項目の登録基準に基づいて審査が行われます。
10項目の中で、1~6項目までは文化遺産の登録基準で、建造物・遺跡の歴史的・文化的・普遍的・芸術的・学術的価値が評価に影響を受けます。
7~10項目までが自然遺産の登録基準で、風景の美しさよりも、生き物や自然現象の希少さと、申請国の保護の状況を重視した審査が行われます。
世界遺産の8割以上は文化遺産で占められています。自然遺産は残り1割ですので、自然遺産に選ばれるだけでも貴重なことです。
さらに複合遺産に選ばれるためには、文化遺産と自然遺産両方の基準を満たす必要があります。世界遺産の中でも、僅か3%という少なさには、申請そのものが難しいためといえます。
世界の複合遺産が高評価を受けた理由
世界遺産の中で僅か3%の複合遺産に選ばれるためには、文化遺産と自然遺産両方の基準を満たす必要があります。
現在登録されている複合遺産は、どのような点で高い評価を受けているのでしょうか?
カンチェンゾンガ国立公園(インド)
登録区分)複合遺産
登録年)2016年
登録基準)(3), (6), (7), (10)
カンチェンゾンガ国立公園、 世界遺産写真がありませんのでこちらのサイトで写真を確認してください。
1つ目の複合遺産は、インドの北西部、ブータン、ネパール、中国と国境を接するシッキム州にあるカンチェンゾンガ国立公園です。
シッキム州では、仏教の宗派(国際的)が折り重なる地域でした。
シッキム州は神話が信仰されていた時代から、崇拝の対象とされていました。
地域に仏教が広まった16世紀頃、チベット仏教を信仰するレプチャ人によって、チベット仏教の重要な寺院が建設されたことで歴史が継承され続けていると評価を受けます。
また、地域の植物と動物の中には多くの絶滅危惧種が暮らしているため、生物多様性の保全の目的で世界遺産委員会から異例の推薦を受け、複合遺産として登録されることになります。
ギョレメ国立公園およびカッパドキアの岩石遺跡群(トルコ)
登録区分)複合遺産
登録年)1985年
登録基準)(1), (3), (5), (7)
トルコ中央にあるギョレメ国立公園およびカッパドキアの岩石遺跡群は、紀元前に建設された石造りの町の遺跡が残る地域です。
紀元前6世紀頃のアケメネス朝ペルシアによって整備が進められたカッパドキアは、古代ローマ、東ローマ帝国、オスマン帝国と支配する勢力が入れ替わるたび、整備と戦乱の中でも地域の文明の証拠として残り続けました。
妖精の煙突と呼ばれる、岩石の風化で生まれた幻想的な渓谷の中に佇む石造りの住宅、岩窟教会、そして地下都市カイマクルが現代まで残り続けています。
文化遺産としては、初期のキリスト教が広まった歴史的な建築物が文明の証拠として高い評価を受け、自然の渓谷の中に佇む遺跡そのものは自然と文明の生んだ美しさとして複合遺産の基準を満たしたとされています。
「カッパドキアって、自然と歴史が本当に見事に融合している場所ですね。初期キリスト教の遺跡が自然の中に溶け込んでいるなんて、すごくロマンチックです。」
「そうですね。自然の力と人間の歴史が共存し、共に評価されるところが複合遺産の魅力です。」
マチュ・ピチュの歴史保護区(ペルー)
登録区分)複合遺産
登録年)1983年
登録基準)(1), (3), (7), (9)
ペルーの空中都市マチュピチュは、ドキュメンタリー番組で見たことがない人がいないほど有名な世界遺産です。
15世紀頃に建設されたとされるマチュピチュは、スペインによるインカ帝国征服の後、長らく人の
目に触れることはありませんでした。
1911年、アメリカの探検家によって発見されたマチュピチュは、インカ帝国に「記録」という習慣がなかったため、現代でも調査が続いています。
文化遺産としては「建築上疑う余地のない傑作」、自然遺産としても「人と自然環境の相互作用の顕著な例」と申請された当時の最高の評価を受け複合遺産として登録されることになります。
世界遺産検定の例題
Q1.空欄にあてはまる語句として、正しいものはどれでしょうか。(世界遺産検定4級)
世界遺産は、文化遺産と自然遺産、( )の3つに分類されています。
1. 複合遺産
2. 混合遺産
3. 人間遺産
4. 無形遺産
世界遺産に占める複合遺産の割合と希少価値・複合遺産はどんな世界遺産
世界遺産の中でも、登録の際に高い評価を受け、文化遺産と自然遺産両方の基準を満たす必要がある複合遺産。
登録数は2021年時点で39件と、世界遺産の中でも3%しかありません。
貴重な世界遺産の中でも、さらに貴重な複合遺産、世界遺産検定で3級を目指す方は、有名な複合遺産の名前を覚えておく必要がありそうですね。
世界遺産の複合遺産一覧
以下は、世界遺産に登録されている複合遺産の一覧です(2021年時点)。複合遺産は文化遺産と自然遺産の両方の基準を満たす貴重な遺産です。
複合遺産名 | 国 | 登録年 | 登録基準 |
---|---|---|---|
マチュ・ピチュ | ペルー | 1983年 | (1), (3), (7), (9) |
ギョレメ国立公園およびカッパドキアの岩石遺跡群 | トルコ | 1985年 | (1), (3), (5), (7) |
カンチェンゾンガ国立公園 | インド | 2016年 | (3), (6), (7), (10) |
シミエン山地国立公園 | エチオピア | 1978年 | (7), (10) |
ウルル=カタ・ジュタ国立公園 | オーストラリア | 1987年 | (5), (6), (7), (8) |
タスマニア原生地帯 | オーストラリア | 1982年 | (7), (8), (9), (10) |
ナミブ砂漠 | ナミビア | 2013年 | (7), (8), (9), (10) |
タイのトゥンヤイ-フワイ・カーケン野生生物保護区 | タイ | 1991年 | (7), (9), (10) |
ジャイアンツコーズウェーとその海岸 | イギリス | 1986年 | (7), (8) |
ピレネー山脈-モン・ペルデュ | フランス/スペイン | 1997年 | (3), (4), (5), (7) |
複合遺産の具体的な例とその魅力
カンチェンゾンガ国立公園の文化と自然
カンチェンゾンガ国立公園は、インドのシッキム州に位置し、2016年に複合遺産として登録されました。この公園は、標高8,586メートルのカンチェンゾンガ山を中心に広がり、豊かな自然環境と深い文化的背景を持つ地域です。
文化的には、カンチェンゾンガはシッキムの人々にとって聖なる山として崇められ、古くからの伝説や宗教的儀式が行われてきました。公園内にはチベット仏教の寺院や修道院が点在し、地域の歴史と信仰を伝えています。
自然環境としては、多様な生態系が広がり、多くの絶滅危惧種が生息しています。これにより、カンチェンゾンガ国立公園は生物多様性の重要な保護地域としても評価されています。
ギョレメ国立公園とカッパドキアの独自性
トルコ中央部に位置するギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石遺跡群は、1985年に複合遺産として登録されました。この地域は、火山活動と風化作用により形成された独特の景観が特徴です 。
ギョレメ国立公園は、紀元前の時代から人々が住み着き、岩を掘り抜いて作られた住宅や教会、修道院が数多く存在します。これらの岩窟建築は初期キリスト教の重要な遺産として評価されています 。
自然の奇観として知られる「妖精の煙突」は、この地域の風景をさらに魅力的にしています。独特な地形と人間活動が調和したカッパドキアは、その歴史的価値と自然美で訪れる人々を魅了し続けています。
マチュ・ピチュの歴史的背景と自然環境
ペルーのアンデス山中に位置するマチュ・ピチュは、1983年に複合遺産として登録されました。この遺跡は、15世紀にインカ帝国によって築かれた都市で、標高2,430メートルの山中に存在します。
文化的には、マチュ・ピチュはインカ帝国の建築技術と都市計画の傑作とされています。石造りの建物や寺院、階段状の農地が美しく配置され、その設計は天文学や宗教的な意義を持っています 。
自然環境としては、マチュ・ピチュはアンデスの豊かな生態系に囲まれています。特に雲霧林の生態系が広がり、多様な動植物が生息しています。これにより、マチュ・ピチュは自然と文化の調和を象徴する場所となっています 。
日本国内の複合遺産の可能性と未来
日本の複合遺産候補地の紹介
日本国内にも、複合遺産として登録される可能性のある地域が存在します。例えば、富士山はその象徴的な美しさと信仰の対象としての歴史的価値を持ち、文化遺産と自然遺産の両方の要素を兼ね備えています (公益社団法人日本ユネスコ協会連盟)。
日本の文化と自然が融合する場所
日本には、多くの場所で文化と自然が融合した景観が見られます。例えば、京都の寺院群とその周囲の自然環境や、奈良の歴史的建造物と豊かな森林が挙げられます。これらの地域は、文化と自然の調和が評価され、複合遺産としての可能性を秘めています。
日本が複合遺産を増やすための取り組み
日本政府や地方自治体は、複合遺産の登録を目指してさまざまな取り組みを行っています。文化遺産と自然遺産の保護活動を強化し、地域の歴史や自然環境の価値を国際的に発信する努力が続けられています。また、地域住民との協力を通じて、持続可能な観光と環境保護の両立を図る取り組みも進められています。
世界遺産登録基準と複合遺産の意義
世界遺産登録基準の詳細解説
世界遺産は、ユネスコ(UNESCO)によって定められた10の登録基準に基づいて評価されます。この基準は、文化遺産と自然遺産の両方に適用され、それぞれ以下のように分類されています。
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文化遺産の基準:
- 人類の創造的才能を表現する傑作
- 文化交流の重要な証拠
- 現存するまたは消失した文化の独自な証拠
- 建築または技術の発展における顕著な例
- 伝統的な人間の居住地、土地利用または海上利用の顕著な例
- 結びついた伝統、信仰、芸術的作品
-
自然遺産の基準: 7. 卓越した自然美と美的重要性を持つ現象 8. 地球の歴史の主要段階を示す顕著な例 9. 生態系や生物の進化の重要な進展を示す顕著な例 10. 生物多様性の保全にとって重要な自然生息地
これらの基準を満たすことで、世界遺産として認定されます。複合遺産は、これらの基準の中から文化遺産と自然遺産の両方に該当する場合に認定されます。
複合遺産が評価される理由
複合遺産は、文化遺産と自然遺産の両方の価値を持つ特別な遺産です。その評価のポイントは、以下の通りです:
- 文化的価値: 歴史的建造物や文化的伝統が保存されていること
- 自然的価値: 豊かな生態系や自然現象が見られること
- 相互作用: 人間と自然の調和が実現されていること
このように、複合遺産は単なる文化的または自然的な価値だけでなく、その両方が高次元で融合している点が評価されます (公益社団法人日本ユネスコ協会連盟)。
文化遺産と自然遺産の違いと共通点
-
違い:
- 文化遺産は人類の歴史や文化に関する価値を評価
- 自然遺産は地球の自然環境や生態系に関する価値を評価
-
共通点:
- どちらもユネスコの基準に基づいて評価される
- 保護と保存が重要であり、持続可能な利用が求められる
複合遺産と持続可能な観光の関係
複合遺産地域での持続可能な観光の実例
複合遺産地域では、持続可能な観光が非常に重要です。例えば、ペルーのマチュ・ピチュでは、観光客の流入が環境に与える影響を最小限に抑えるため、訪問者数を制限し、エコツーリズムの推進が行われています。これにより、遺産の保護と観光収益のバランスが図られています。
観光と環境保護のバランス
複合遺産地域では、観光収益が地域経済にとって重要ですが、一方で環境保護も欠かせません。そのため、以下のような取り組みが行われています:
- 観光客数の管理
- エコツーリズムの推進
- 地域住民の教育と協力
これにより、遺産の持続可能な利用が実現されています。
地元コミュニティの役割と協力
持続可能な観光を実現するためには、地元コミュニティの協力が不可欠です。地域住民が観光ガイドとして参加したり、エコツアーを運営したりすることで、観光と環境保護の両立が進められています。また、地域の文化や自然環境に対する理解を深めることで、観光客と地元住民の間に信頼関係が築かれます 。
複合遺産の保護と保存活動
国際的な複合遺産保護活動
複合遺産の保護と保存には、国際的な協力が不可欠です。ユネスコ(UNESCO)は、世界遺産委員会を通じて複合遺産の保護活動を推進しています。これには、定期的な監査と評価、保護計画の策定、技術支援の提供が含まれます。ユネスコはまた、世界遺産基金を活用して、保護活動の資金援助を行い、緊急対応が必要な遺産に対する迅速な支援を提供しています。
地元政府と国際機関の協力
複合遺産の保護には、地元政府と国際機関の緊密な協力が必要です。例えば、ペルーのマチュ・ピチュでは、ペルー政府とユネスコが共同で保護計画を策定し、観光客の管理や環境保護のための措置を講じています。また、インドのカンチェンゾンガ国立公園では、インド政府と国際環境保護団体が協力し、絶滅危惧種の保護や生態系の維持に取り組んでいます。
地元政府は、保護活動の実施と監督に重要な役割を果たします。地元住民の教育と参加を促進し、地域社会全体が遺産の保護に貢献する体制を構築しています。さらに、国際機関との協力により、技術的な支援やベストプラクティスの共有が可能となります。
複合遺産保護の成功事例
複合遺産の保護活動の成功事例として、以下のものがあります:
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マチュ・ピチュ(ペルー): ペルー政府とユネスコの協力により、訪問者数の管理が徹底され、観光の影響を最小限に抑えています。観光客の動線を制限し、遺跡の保護と修復活動が継続的に行われています。また、地元住民が観光ガイドやエコツアーの運営に参加し、地域経済の活性化と遺産保護の両立を実現しています。
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カンチェンゾンガ国立公園(インド): インド政府と国際環境保護団体の協力により、絶滅危惧種の保護や生態系の維持が進められています。特に、レプチャ族の文化と自然環境の保護に焦点を当てた取り組みが評価されています。地元コミュニティとの協力により、持続可能な観光が推進され、生物多様性の保全が強化されています。
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ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石遺跡群(トルコ): トルコ政府とユネスコの共同努力により、遺跡の保存と観光管理が行われています。岩窟教会や地下都市の修復活動が進められ、地域全体の文化遺産としての価値が保たれています。また、地元住民の教育と観光業の発展が地域経済に貢献しています。
「この記事を読んで、複合遺産の価値がよくわかりました。日本にも、富士山のように可能性のある場所がもっと増えてほしいです。」
「その通りです。日本の文化と自然が一体となった遺産が、世界にもっと認められるようになると良いですね。」
世界遺産の複合遺産一覧と日本の登録数まとめ
- 世界遺産には文化遺産、自然遺産、複合遺産がある
- 複合遺産は文化遺産と自然遺産の両方の基準を満たす
- 2021年時点で世界の複合遺産は39件
- 日本には複合遺産がまだ登録されていない
- カンチェンゾンガ国立公園はインドにある複合遺産
- ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石遺跡群はトルコの複合遺産
- マチュ・ピチュはペルーにある有名な複合遺産
- 富士山は日本の複合遺産候補地の一つ
- 日本政府は複合遺産の登録を目指している
- 複合遺産は持続可能な観光が重要
- ユネスコは複合遺産の保護活動を推進している
- 地元政府と国際機関が協力して複合遺産を保護している
- マチュ・ピチュでは観光客の管理が徹底されている
- カンチェンゾンガ国立公園では絶滅危惧種の保護が行われている
- ギョレメ国立公園では岩窟教会の保存が進められている